田川未明さんの本をやっと手に入れた。
うう。これだから田舎ってヤツは・・・と文句のひとつも
言いたくなるくらい注文してから届くまでが長かった。

待ちに待ったこの本の表紙の人形に身震いした。
題名は「溺レルアナタ」。
また、ぞくりとした。

未明さんの書く女性は、どんなに動いていても
静止画像のようだ。
昭和の映画を思わせる家や彼女達の佇まい。
地味とすれすれの美しいヒロインは、どこか、
異空間からやって来たように、落ち着いている。
一見、狂人のように思わせられる。

「家鳴り」の寝込んでしまった母親とその妹娘との関係。
「ニンギョヒメ」の中の“人魚姫には、なりたくない”と言いつつ、
充分、人魚姫のような美しさで人を虜にする妖しさを醸し出す祥子。
女性にまで恋慕されるなんて、恐ろしいほど魅力的だ。
「オリヒメ」での、“いそまくらの時を待つ”小夜子。
本の題名である「溺レルアナタ」の鈴。
文字通り、鈴に溺れてゆく来生が哀れでいとおしい。

彼女たちはきっとどんな暑い日でも汗をかかないだろう。
この表紙の人形のように。
ひんやりとした幻想的なこの世の人間。
未明さんの書く人物に、逢ってしまったらひとたまりもない。
目を逸らせなくなってしまうだろう。
彼女はそんな人を、すい、と空洞のような瞳で見つけて、
手を差し延べるだろう。
その手をとった時、
こう言われるのだろうか。

―― シカタガナイから、見ていてあげる。
    溺レル、アナタ、を。 ――

きっとその人も、溺レル、と思う。
ひとはいつもどこかで、溺れる事を望んでいる筈だから。


「溺レル、という悦楽の世界を。」 


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