ネジバナを根っこごと抜いたら、ぞろぞろと蟻があふれてきた。
 灰色のアスファルトの上をぐるぐると回っている。
 そんなに回ったら方向が分からなくなって、
 ずっと回り続けなくちゃならないよ。
 永久に終わらない輪舞曲みたいに。
 ひとりで蟻に向かって喋ってるあたし。バカみたい。
 今頃、五年二組の教室では国語のテストをやっているはずだ。
 [輪舞曲]――ちゃんと漢字も意味も覚えたのに。

 今朝ママは言った。
 「熱はさがったけど、もう一日お休みしなさい」
 なのに、圭兄ちゃんが来た途端、「お外で遊んできたら?」だって。
 アホか、と思いながらも「遠くに行っちゃダメよ」というママの言いつけ通り、
 律儀に家の前にいるあたしもあたしだ。

 パパは、毎晩夜中に帰ってきて、寝て起きて出かけていくだけ。
 だから、ママが圭兄ちゃんと仲良くしたって構わないと思ってる。
 そう言うと、ママは「子どもが何てこと言うの」と、さも哀しそうな顔をする。

 ママは、分かってない。
 あたしもふたりの共犯者だってことを。
 そう、ほんとうにママは何にも分かってない。
 あたしが圭兄ちゃんを好きだってことさえも。

 三十三歳のママと、二十歳の圭兄ちゃん。そして、十一歳のあたし。
 あと七年もすれば、ママは四十歳、圭兄ちゃんは、二十七歳。
 そして、あたしは十八歳。
 その時圭兄ちゃんが選ぶのは、ママじゃなくて、このあたし……。
 
 ママは気づいてないけど、あたしとママはよく似てる。
 好きなものや嫌いなことが。
 ということは、もしかしたらあたしの娘も、いつかきっと……?

 どこかの家の窓から正午の時報が聞こえる。
 隣の家のテレビで、タモリが賑やかに歌いはじめた。
 窓もドアも閉め切ったあたしの家だけが、ひっそりと静まっている。
 お腹空いちゃったなぁ。
 ひとり呟きながら、枯れ枝で黒い群れを突っつく。
 慌てて散らばった蟻たちは、またすぐに戻ってきて、同じ所を回り始める。
 永遠に続く輪舞曲みたいに、ぐるぐると、ぐるぐると。
 
     
  
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ゴザンスの800字。
「平日、正午に」「家の前で」「タモリが」というお題で書いたもの。
拙著、「ミ・メディア」にも掲載。