近くの家の屋根に、風見鶏がいる。
今日は、南西の風。
どうりで暖かいはずだね、と歩きながら喋っていると、
話しは「風向き」から「風速計」のことになり、
そうそう、おわんのような羽があって、
くるくるまわる風速計。
たしか学校にあったっけ。
そういえば。
百葉箱というのもあったよね。
よろい戸の、白い箱。

百葉箱。
なんで百葉というのだろう。

透き間があるから、そこから葉っぱが入るんじゃないの。
写真を数えるとき、一葉二葉というから、
何かの単位かもしれないね。
あれこれ思いめぐらすが、答えは出ない。
にわかに空が暗くなり、
吹きつける風が硬くなる。
北風だ。
風に舞う落ち葉が、かさこそ鳴って、
あとからあとから追いかけてくる。

足を早めながら、
あたしは百葉箱のことを考えている。
北風に首をすくめながら、
雨ざらしになった白い百葉箱の、
ささくれた扉をそっと開く。
記憶の中に、うずもれていた百葉箱から、
枯れ葉がかさこそとあふれてくる。
あとからあとから、
尽きることなく、
いつまでもこぼれおちてくる。

あたしの胸の中にある校庭の
片隅にぽつんと突っ立っている、百葉箱。
よろい戸の、白い箱。



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気になって調べてみたら。
「百葉」とは八重の花びら、牛や羊の胃のこと。
百葉箱の壁のよろい戸が、
ヒダヒダのある牛の胃袋に似ているところから
名づけられたのだとか。
なんとまぁ。
 
知らずにいたほうがよかったような。