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熱のある日。

パソコンの文字が、にじんでいる。
浮きあがって、大きい。
とけいの音が、鼓膜にひびく。
かちこちと、でも、間延びして。
スニーカーのかかとが、固い。
かちんと冷たい。
アスファルトが、柔らかい。
ぷくぷくと、踏みしめにくい。
八百屋の電球は、黄色い月。
トマトの赤がまぶしくて、
りんごを包んだビニールが、
てかてかと光って、銀色。
エスカレーターの速度が早い。
いつ乗ればいいのか分からずに、
じっと立ち止まり、目がまわる。
マネキンの目が、異様に黒い。
道ばたの犬とばかり目があう。
猫はそそくさと逃げていく。
街路樹の枝が、すぐそこにある。
空が高い。
うんと高い。
沁みるほどに高い。
海の底から見あげる水面のように、
揺れて光る蒼い空。


熱のある日。
世界は、なんだか近くて遠い。
すべては水の向うにあるかのようで、
あたしはひとり、
ぷかぷかと、
おいてけぼりの、さかな1尾。