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暖かな陽射しが降っていると、
外に行きたくなって、
困る。

昼過ぎに、日々の買い物から家に戻り、
戻ったなら、PCに向かえばいいものを、
つい、また、ふらふらとしたくなる。
ウールは暑いと脱ぎ捨てて、
綿のシャツ一枚で、
またドアをあけている。

小道の果てに、白く萌えているものがある。
桜よりも、強く豊かに、
澄んだ陽射しを跳ね返している。
満開の、辛夷(こぶし)である。

天に向かって丸くつぼんでいたはずの花びらが、
翅(はね)をひらいて舞いたつ蝶のように、
惜しげもなく開いてみせている。
みだらなほどに、
しどけなく、芯をさらしている。

常軌を逸しているかのような、
咲きようである。
乱れて、陶酔するかのような、
開きようである。

我をなくして舞い乱れ、
歓喜のままに散った辛夷の花は、
黒々とした庭のそちこちに、
死骸のように散らばって、
いつしか土に還っていく。
それを知りつつ、今が盛りと震える花は、
春に仕える巫覡(かんなぎ)である。
天空に向かって
春を手招き、
春を叫ぶ神子(かんこ)である。


我をなくした辛夷の花から目をそらし、
ほとほとと春の道を辿っていく。
生け垣に芽吹いた葉や、
膨らみきった桜のつぼみ、
くすのきの枝にとまる烏(からす)までが、
命の歓びを、発している。

押しあげる命にあてられ、
生臭い風に煽(あお)られて。
目眩がするほどの春である。


春。
生き物が、生き物たる、春。

湿った土から顔を出す虫のように、
ついつい出かけてきたこのあたしも、
春に喚(よ)ばれているのだろうか。

ぽってりと重たそうな白い椿の花の下に、
猫が寝ている。
ほんとうは、ああして春をやり過ごしたいのに。
命の息吹にあてられることなく、
悠々と寝そべって、目を閉じたい。
死骸のように。


だが。

暖かな、
山吹色の光りが降ってくると、
かちゃりとドアをあけている。
男を誘いこむ、みだらな娼婦のように。
花の匂いのする風が吹いてくると、
着物を一枚脱ぎ捨てて、
ふらふらと路地を歩いていく。
露出狂の女のように。


春になると、
外に行きたくなって、

困る。