熱が出て学校を休んだ日。
ひとりきりの部屋で、うつらうつらとまどろみながら、
買い物に出掛けた母の帰りを待っていた。
熱が出ると必ず、母は本を買ってきてくれるのだった。
童話だったり、マンガだったり、
その時あたしが欲しがっていた本を、
魔法使いのように、ぴたりと当てて。

そして何よりも、楽しみだったのは、お昼ゴハン。
母がお盆に載せて持ってきてくれる、バタアつきのパンとミルク紅茶。
――その頃ウチでは、こう呼んでいた。トーストではなく、バタアつきパン。
ミルクティーではなくて、ミルク紅茶――。
熱がある日だけの特別なお昼。

こんがりと焼いたパンにたっぷりのバタア。
ちょっとしょっぱいそのパンを、
甘い甘いミルク紅茶に、そっと浸して食べるのだ。

甘くてしょっぱい。
香ばしくて、柔らかい。
とろけるような、幸福の味。

オトナになってからも、時々無性に食べたくなって、
自分で作ってみるのだけれど、どうしてもあの味とは違うのだ。
なんということもない、バタートーストとミルクティーだったはずなのに、
どうしてもあの味には出逢えない。

もう味わえないからこそ、焦がれるのだろう。

守られていた子どもの頃の、
幸福な熱の記憶。