硝子越しに眺める景色はうっすらと靄(もや)っていて
 くすぶる霞(かすみ)に散る透明な日射し
 遠くの雲はぼんやりと滲んでいて
 水たまりのような 海が
 青くもなく黒くもなく
 光の鏡

 完璧な春

 白く煙る梅の木に飛び交う鶯は
 うぐいす餅のようにほっこりと丸くウグイス色
 白く大きな翼を頭上でたたむ木蓮は
 これみよがしに滑空するとんびに恋こがれる
 開き始めた沈丁花の下に
 目を瞑る猫 長々と
 死骸のように

 申し分のない春

 のびやかに心を広げ
 硝子戸をあけはなってみれば
 冷たいのだ
 溶けるような日射しが
 青い芽を揺する風が
 冷たい

 いつもこうだ

 春は

 あたかもぬくぬくとした
 まやかしの光
 やわやわと温(ぬる)そうな
 あやかしの風

 かどわかされた無念さに
 舌打ちをして
 悔し紛れに
 大仰なくしゃみをしてみれば
 天空のとんびが
 ひゃらひゃらと嗤う


 春は嫌いだ